1. TOP
  2. 銀行融資担当者へインタビュー「創業融資成功後、3年で閉店の理由」

銀行融資担当者へインタビュー「創業融資成功後、3年で閉店の理由」

創業融資成功後、3年で閉店の理由

今回は勤続30年の銀行員の方に、銀行の創業資金申込みという入り口からその出口までの体験談を伺いました。


創業融資成功、経営順調と思われたが

「飲食店を開業したい」

とAさん(30代男性)が当銀行の私の窓口に来店されました。

素直で創業への意欲も感じられ、初対面の印象はとても良い方でした。

できる限りのサポートをしようと信用保証協会への創業融資申請も代行してお手伝いさせていただき、無事に信用保証協会で保証が承諾され、融資金をもとに無事開業までに至りました。

ところが開業されて経営が上手くいっていたのもつかの間、2年目から客足が遠のき始め、3年目でとうとう閉店に至ってしまいました。

信用保証協会は代位弁済つまり債務者に代わって第三者が弁済する請求手続きとなり、Aさんは破綻してしまったのです。

銀行員は長く留まることで不正や癒着を防ぐためにひとつの部署に平均3年、長くても5年しかいません。従って自分が融資したお客様の最後を見届けるようなことは稀であり、創業融資の申込みという入口から3年で破綻という出口まで自分が見届けることになるとは思ってもみませんでした。

代位弁済から銀行口座強制解約などの事務処理を取扱い、私が取扱い融資したお金を代位弁済という形で強制的に回収した時には、とても複雑な心境でした。

Aさんはその後、保証協会への返済もできず自己破産されました。保証人だった親類も同じく自己破産され、どちらも地元から去り、他所へ引っ越されていきました。


創業後の自信は必要、過信は危険

飲食業で長年修行してきたAさんには、創業に向けてきちんとした計画と熱意がありました。ただお店の場所については無頓着であったように思います。

その場所は店が開店しては閉店し、次の店がオープンしてもすぐ店をたたんでしまうといういわゆる「なにをやっても上手くいかない土地」でした。しかしだからこそ家賃が安く、Aさんはコストの面からその場所を選ばれていました。

心配になった私は場所の懸念を何度かAさんに伝えましたが、「事業計画に自信があるので大丈夫!」と答えるだけでした。

その場所で開店された人は皆同じ考えだったでしょうし、結論から言えばAさんの自信は過信でした。自信と過信は違う、自信は必要だが過信は危険であることを学びました。


部下に仕事を任せるということ

Aさんには信頼できる部下がいました。

開店1年目はご自身が店長、部下はマネージャー的な位置で支えてくれ、順調な様子でした。Aさんがお店を運営され、ご自身がお店に出られない時だけ部下にお店を任せていらっしゃいました。

しかし2年目になると多少の安定から、Aさんは新事業の立ち上げを考え始めます。

店は部下に任せることが多くなり、「店の売上げ状況、客の入りから仕入、アルバイトの人事対応など全部部下に丸投げしていた」(本人談)状態で、同時に経営も悪化していきました。

事業を興して軌道に乗ると自分一人では忙しく対処できないことが増えてきます。そこで人に任せる必要性が出ててきますが、個人事業主では配偶者(専従者)や家族が手伝い、家族のみで事業をするのが良くある形です。家族ですから信頼という点は基本問題ありません。

Aさんは独身で家族でない人に業務をお願いするしかなかったのですが、友人、部下など信頼できる人を「どこまで信じるか」「どこまで委ねるか」この見極めが非常に難しいのです。どんなに信頼できる人物であっても任せきりにせず、状況に応じて経営者の判断をしっかり入れ、軌道修正していく。従業員に判断できる箇所は任せ、経営者判断が必要な範囲はしっかりとAさんが行えば、違った結果になっていたのではないかと考えています。


受け入れられなかったアドバイス

経営悪化を知り、私はアドバイスを行いました。もちろん銀行員の仕事としてですが、何とか立ち直ってもらいたいという強い気持ちもありました。

1.運営を部下任せにせず、以前のように自分で管理してはどうか

2.事業を立ち直らせるために返済軽減(返済期間を後に延ばす)を考えてはどうか

3.事業を再生する経営改善計画を作り、現状と向き合い一緒に課題解決法を考えましょう

そうお伝えするとAさんは

「ご親切にありがとうございます。参考にさせていただきます」

と丁寧に答えて下さるのですが、残念ながらひとつも実行されませんでした。

銀行で融資を受けて返済している間は毎年決算書を持参してもらい、銀行員はお客様と仕事の状況についてヒアリングを行います。ヒアリングは融資した相手の状況把握に欠かせませんが、Aさんとのヒアリングの際にも、決算書からも、アドバイスの取り入れや業務の改善は見られなかったのです。


理想の経営者とは

上司から「前と上ばかり見ている人間は転ぶ」という言葉を教わりました。

「上昇志向の強い人は前と上ばかりで足もとが見えていないので失敗する」という意味です。「前」は未来、将来。もちろん夢を持つのは大事ですが、夢想、バラ色の妄想レベルではいけません。「上」も同様に事業を大きくする、店舗を増やすなどランクアップばかり求めて無理をしてはいけません。

前と上だけ見て歩けばすぐ何かにぶつかり転びます。転ばないためには「下」つまり足元や、場合によっては「後ろ」過去を振り返り、今の自分の状況を冷静に見つめ直すことも必要です。

この言葉には、銀行員が考える理想の経営者像があります。

空想レベルの夢や、無理な拡大志向を持たず、綿密に練った計画を作り行動すべき。計画を練るには今の自分を知ることが必要であり、同時に今の自分を知るには過去の自分と比較することも大事。

銀行員はこうした姿勢を経営者に求めています。


担当者の勘

「あの時、もう一度土地探しから再考するようアドバイスできなかったか?」

これは今でも自問自答することです。このケースは飲食店創業のため、土地は非常に重要な要素でした。

しかし賃貸契約が仮契約まで進んでおり、銀行員とは言えやめるよう言う権限はなかったこと、顧客本人がやる気満々であり、銀行もサービス業で顧客の意向を遮ることができなかったことから、当時再考は難しい状況でした。

今思うと銀行員としての勘、悪い予感といったものだったかも知れません。

勘など信憑性がないと思われるかも知れませんが、30年銀行員として過ごしてくると数え切れないほどの融資の失敗例を見てきたことになります。

その経験と決算書や計画を見て感じる「直感」があり、私の勤務する銀行ではそれを「第一印象」と表現し「自分の第一印象で危ないと感じた融資は行ってはいけない」といわれています。

経験と決算数値などを見て感じることなので、決して単なる「勘」ではないのです。もちろん銀行の融資審査は担当者一人ではなく上司、支店長など複数の人間が判断するものですが、銀行融資では直接お客様と接する担当者の意見、直感といったものは重視されます。

銀行員として経験を積んだ今、もう一度考えてみると助成金など公的支援で資金の一部を調達して借入を減らしてスタートしていたら、破綻までには至らなかったかもしれません。この当時は使える助成金が少なく、また現在のように銀行が助成金申請など支援、アドバイスもしていませんでした。

もし今Aさんが創業資金の申込みにみえたら、土地の再考を促すとともに融資だけでなく助成金申請のアドバイスもできますし、仕入先、設備工事業者紹介などのいわゆる「ビジネスマッチング」で支援することもできるでしょう。

アドバイスをしっかり聞いていただければ、の話ではありますが。


創業融資で分からないことがあれば専門家へ相談を

創業融資は一発勝負です。一人で悩まずに専門家に相談して問題をクリアにし、準備を万全にしてからいざ本番に臨みましょう。創業融資のフルサポなら、近くの専門家に無料で相談にのってもらえるから安心です。お近くのフルサポを探す

「自分の事業にどれ位融資して貰えるか知りたい」
「事業計画書を書いてみたけれど、本当にこれで融資を受けられそうかな?」
「返済が心配なのでスケジュールを相談したい」
などなど、人によって気になるポイントは様々。
創業融資のフルサポなら相談できる先生の雰囲気や事務所の強みを確認できるから、
安心して連絡ができますね。
まずはメールで問い合わせたいという方はコチラ


――――創業お役立ちインタビュー――――
1.創業融資担当者目線から見た「融資基準」
2.良いスタートをきるための準備とは
3.創業融資を受けると得か損か
4.日本政策金融公庫の活用方法
5.面接なんて怖くない!経営者の資質はここで見られている
6.面接なんて怖くない!事業計画書の項目
7.20年前の創業融資
8.飲食業開業のために融資を借りました
9.飲食業・バー経営 未経験での開業準備と開業後
10.色々な金融機関へ創業融資を申し込んだ結果
11.銀行融資と保証協会
12.マイナス面があっても『創業する』熱い想いを伝える
13.創業融資成功後、3年で閉店の理由


インタビュー一覧に戻る